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半径5メートルの違和感を声に出したら、社会のデザインにつながった。

平本沙織さんは、いくつも肩書をもっている。3Dプリンタ専門家、PR・マーケティングコンサルタント、会社役員など。

最近、そこに「ソーシャル・アクティビスト」が加わった。

2度の転職、副業、夫婦起業。自由なはたらき方でやりたいことをかたちにしてきた自分が、妊娠した途端、育児の規範や制度の「はずれ値」にいた。

「詰んだ」といったん絶望してから、胸にしまっていた違和感を言葉にのせ、仲間とつながり「社会ごと」にして仕組みを少しずつ変えていく――そのプロセスから見えてきたこと。

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妊娠して気づいた。自分は社会の「はずれ値」だった。

2回の転職を経て、その後2015年に夫と起業。ほどなく妊娠が分かりました。妊婦検診の待ち時間にまでMacBookを広げて仕事をする日々を送ってました。

妊婦の実感がわかないまま、世の言う「妊婦」になりきろうとしました。マタニティ雑誌の「出産準備号」を読んだり、自治体のマタニティクラスに参加したり、保活の相談にいったり。

でも、なぜかしっくりこない。

「出産準備号」の特集は「育休を経て職場復帰するまでの計画」。前提が育休のある「共働きの会社員」を想定してつくられていました。5ページも特集が組まれていたのに、自営業のわたしからすれば、マルッと関係ない内容。

自治体のマタニティクラスで「みんな一緒にママになる」と助産師から励まされた同じ日、自治体の総合出張所の相談カウンターで「ご夫婦で自営業だと入園のポイントが低い。保育園に入れない可能性が高い」といわれる。

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調べてみたら、自営業は、そもそも産休と育休の制度がなかった。休んでいる間、被雇用者だったら保障されている給付もない。当時は社会保険料も免除されていなかった。

え?じゃあどうやって休めばいいの? 

詰んだ、とおもいました。企業社会の日本で、わたしみたいな属性は「はずれ値」みたいな存在なんだ、と。

2016年6月に息子を産んで、生後3カ月で仕事を再開しました。自治体の一時保育を転々としながら、ベビーシッターサービスも使ってしのぎ、翌2017年4月に生後9カ月で息子を認可保育園に入れることができました。場所は、最寄り駅から4つ先。ベビーカーの息子と一緒に満員電車で毎朝通いました。

時々、ベビーカーで乗らざるを得ない電車の中では、「降りろ」と言われたり、舌打ちされたりすることもあった。
子どもが大きくなるにつれて風当たりは強くなった。でも私が望んで遠い保育園に通っているわけではない。厳しい保活の結果、入園できたのが電車に乗らなければ通えない距離にある保育園だっただけなのだ。
息子が2歳になった夏。困った私は、サングラスと金髪の出で立ちで電車に乗って登園することにした。満員電車に乗ってベビーカー登園する“申し訳なさそうな“大人しそうなママ””を演じるのをやめれば、直接文句を言われることが減って、平和に過ごすことができたから。(ハフポスト日本版への寄稿から)

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2017年秋、#保育園に入りたい というキャンペーンをやっていた団体が院内集会を開くとSNS投稿で知って参加しました。少ないながらフリーランスや自営業の母親たちがいて、自分と似た立場の人たちにやっと会えた!と思いました。

メンバーのひとりに「マタハラNet」代表の小酒部さやかさんがいました。彼女は勤務先で受けたマタニティ―ハラスメントの被害を訴え、関連法の改正につながる活動をした人です。私もマタハラ被害にあうリスクだってあったはず。きっと彼女のおかげでマタハラなんてほとんどなかった。

誰かが声をあげるから、社会ごとになり、ニュースにもなる。彼女の姿から、こうやって社会は変わっていくんだと思いました。

自営業者の保活の格差をなくしたいと、先輩の自営業ママたちと議論しながら現状を調べました。2018年2月、先輩自営業ママたちとともに、フリーランス・自営業者の産休・育休のセーフティネットを求めるネット署名で1万3000筆超を集め、厚生労働省に提出しました。同じ立場の仲間と出会ってたったの数カ月、自分の中にとどめてきたモヤモヤを、初めて社会に問うた体験でした。

その年の12月、ツイッターでつぶやきました。ベビーカー登園のため朝、電車に乗り込んだとき乗客のひとりから「この時間にベビーカーで乗るな」と罵声を浴びせられて言い返したときの気持ちを。

 「思わず『抱っこひもだったら子ども死んでるわ!ベビーカーもゆがむのに。一番大きいので来て正解』って言ってしまった」(平本さんのTwitterから)

と書き込むと賛否両論の反応が巻き起こりました。同じ月に、仲間と「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」(下写真)を発足させてネットのアンケートで尋ねました。

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大人でも大変な通勤ラッシュの満員電車や、駅での乗り換え。その中には、少なくない数の子どもや、子連れが含まれています。
職場内の託児所や、遠方の学校へ子連れ出勤したり、子どもだけで通学をする光景を見たことがありませんか?
電車の中で、混雑した駅の中で、そうした子どもたちはどうしているのでしょう。揺れる車内で、座席に座れているのか。押しつぶされてはいないか。(「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」のサイトから)

子連れ乗車を経験した人たちを中心に1000件を超える回答が寄せられました。

都内なので、人が多く、利用者のマジョリティである「健康で五体満足な成人」をベースに作られている駅構内のデザインや、歩くスピードに、幼児たちを適合させるのに本人も親も苦労する。(アンケートの回答から)
子供が2才になりたてのとき車両内で騒いだら、初老の男性に頭ごなしに怒鳴られたのがトラウマになっています。(同)

アンケートをもとに、東京都知事に「通勤ラッシュの時間帯の電車・地下鉄での(障害を持つ人も含む)子育て応援車両の設置」を求める要望書を提出しました。都の対応は早かった。私たちが要望してから半年ほどで、都営大江戸線で通勤時間帯でも子連れで利用できる「子育て応援スペース」のある車両が走り出しました。

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子育て応援スペースのお披露目の際、息子たちと一緒に試乗する平本さん(中央)=本人提供

ものづくりから、社会づくりへ

子どもを産んでからいろんな人たちとつながって、私なりのやり方で社会デザインを作る活動をしてきました。その前の自分と比べたら、ずいぶん変わったように見えるかもしれない。でも、よく考えたらつながっている。

新卒で入った製造コンサルティングの企業で、たまたま3Dプリンタの法人営業を担当していたのがきっかけで、自分で3Dプリンタを動かして小物やアクセサリーをデザインして作るようになった。私みたいにものづくりと縁なく生きてきた人でも、デジタル工作機械で自分が欲しいと思うものを手に入れられたら素敵じゃないか、と。

そこから「ものづくり系女子」という自主活動を走らせてきました。全国の200人の女性たちとデジタル・ファブリケーションを広げたり、3Dプリンタのハンドブックを書いたり、総務省の「異能vation」プロジェクトに採択されたり。

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「ものづくり系女子」の活動をしていたころから「思いを言葉にして、言葉をカタチにする」と言い続けてきました。デジタル工作機械という道具なら私の思いは「モノ」になったけれど、SNSなど、人と人をつなげる道具が普及したら、組織に属さない個人でも、思いが社会をデザインできるようになった。

例えばTwitterの140字に自分の思いを綴って「この指とまれ」と呼び掛けて、共感が広まれば志を同じくする人たちとすぐにつながれる。ポチっとクリックすれば電子署名もできて、ネットアンケートで多くの人の実情がすぐに集まってくる。そうやって思いが言葉になって、社会のデザインにつながる。スケールは違うけれど、ある意味プロダクト(モノ)を作るプロジェクトみたいに、ソーシャル・アクションを進めている感覚がしっくりきます。

プロダクトはやはり「かたち」が求められますが、ソーシャル・アクションは最終的に、限りなくインフラに近付いて、人々には意識されなくなるのがゴールなんだと思います。

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企業勤め、共働きという文脈で「女性の活躍」が語られている。暮らし方も働き方も、私はほとんど当てはまらない「はずれ値」です。だから今の私にはぴったりハマるロールモデルがいない。

いろんな価値観があるなかで、少しずつ社会が変わっていく。私がこんなふうに活動し、生きていくことが、もしかしたら誰かの「つぎはぎ」の一部になり、パッチワークみたいなロールモデルになれるのかもしれません。

取材・文: 川崎絵美、錦光山雅子 撮影:川しまゆうこ

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平本 沙織 ひらもと・さおり=日本女子大学家政学部家政経済学科卒業。女子大生から丸の内OL、2度の転職と夫婦起業を経てソーシャルアクティビストとして活動。2016年生まれの息子がいる。3Dプリンタ専門家、拡張家族実験プロジェクト「Cift」メンバー。「雇用関係によらない働き方と子育て研究会」発起人、「子連れ100人カイギ」実行委員長、「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」代表。

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