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才能を諦めた先に「最先端」があった。

話を聞いたらいろいろ出てきそう。ABEJAにはそう思わせる人たちがいます。何が好きで、どんなことが大事だと思っているのか。そんなことを聞き書きしていきます。

博物館学を学びに入った美大で、デザイン制作ソフトに触れてからウェブデザインの道に入った斎藤尊子さん。いまAIに学習させるために、データに意味を付ける「アノテーション」を担当しています。

「新しいことが好きな性分なんだなあとしみじみ思います」
未知の世界に飛び込んで見えたことは。

斎藤尊子 富山県立高岡高校卒業後、武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科卒業、明治大学法科大学院修了。大学在学中から、株式会社イマジカデジタルスケープ、株式会社Jストリーム、株式会社ダンスノットアクト、株式会社クリークアンドリバー社などでwebデザイン業務を担当。その後、株式会社イトクロにてインターネット広告の業務を担当。現在、ABEJAでアノテーション業務を担当。

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斎藤:高校まで富山に住んでいました。4、5歳の頃から絵が得意で、高校1年生の時から本屋さんで画集を見たり、『美術手帖』や『SWITCH』を読んだりしてました。

美大に行きたいな、でも..と迷っていたとき、「東京の美大予備校に通ってみたら?」と両親が言ってくれました。芸術系に行っても、そうじゃない道を選んでもどっちも大事だし、どっちでもいい。でも行こうと決めたときに行けるだけの準備はしておけば?と。

ーーでも、大学では創作から展示に転換したんですよね。
斎藤:
そうです。アート誌で紹介された人の作品展やデザイン事務所に行ったりするうちに「この人たちほどクリエイティブな才能は自分にはないな」と、なんとなく分かってきました。美大予備校でほかの受験生に出会い、その才能に衝撃を受けたのもありましたし。

自分はそのレベルには行けない。だけど、立ち位置にあうポジションはあるだろう。展示の仕方を考えるとか作品を紹介するとか。それこそ、いつかは『美術手帖』に載るような文章を書けたらな、と思いました。で、美大で博物館学を専攻して、学芸員の資格も取って。

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私が学生だった90年代は、映像技術やIT技術を取り入れ、鑑賞者が参加することで作品が完成する「インタラクティブアート」が盛んになってきていて、博物館、美術館にもその波が及んでいました。だから従来のやり方とは違う、新しい展示の仕方などを勉強してました。

美大で当時のデザイン・アート系のソフトウエアを使うようになって、テクノロジーにも目が向くようになりました。授業ではPhotoshopやIllustratorを使った課題が当たり前に出てました。当時はまだ普及前の段階だったので、これらのソフトが使えるというだけであちこちのデザイン事務所に引っ張りだこでした。

ある時、グラフィックの講義で「時間」がテーマの課題が出ました。「モチーフに時計を使わずに、パソコンを使い2D(平面)で表現」が条件でした。
PhotoshopやIllustratorといったソフトを使って夕焼けを描き「1日の終わり」を表現しました。夕焼けの画像を自分がイメージしたとおりに再現できた時、テクノロジーってすごいなぁ、と思ったんですね。

すべて自分で絵を描くなら相当の画力が必要です。でも、PhotoshopやIllustratorのソフトウェアが、自分の頭の中のコンセプトを再現する手助けをしてくれる。

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斉藤:それから、アメリカ・シアトルのコミュニティカレッジに1年留学したとき、PhotoshopやIllustratorが、すでに普通の人の「道具」として使われているのを目の当たりにしたのも大きかったです。日本ではデザイン業界でも限られた人にしか使われていなかった時期でした。

作家レベルの腕がなくても、テクノロジーの力で一定以上のクリエイティビティは発揮できる。ウェブサイトでも十分表現の場になる。視野も広がって、卒業後はインターネット系の広告代理店に入りました。

センスが客観的に評価される世界

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ーーインターネット広告会社でどんな仕事を?
斎藤:ネットで検索して出てくる商品・サービスの広告ページ全般を制作していました。ランディングページ(LP)といって、いまは当たり前にありますが、2000年代前半当時は企業の間で広まり始めたころでした。

当然、利益や集客につながるようなデザインが求められます。だけどそこにも自分らしさを出す余地はある。「ここは、こう綺麗にしよう」「この色は、センスを出そう」と、色使いやレイアウトなどのところどころに、自分らしいセンスやアートの要素を入れることもありました。

ある保険会社ののランディングページを作ったことがありました。金融業界は青系統の落ち着いた色を好むこともあってか、最初は紺色っぽい青色がベースのページデザインでした。でも、もっと安心感や柔らかい感じも必要だと、思い切って緑系のトーンで作り直したんです。そしたらアクセス数や申し込み者数が増えました。

デザインの変更がアクセスにどう影響したのか、インターネットだから解析も簡単です。自分のセンスという、目に見えないものを客観的に評価してくれるから「デザインの変更は間違ってなかったんだな」とちょっと安心しました。

「今」とつながって生きる感覚

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ーー当時仕事で使っていた様々な道具も、だいぶ変わったでしょう。
斎藤:確かに。私が働いていたころはウェブサイトもHTMLでイチから作ってましたが、今はWordPressといったサイト作成ソフトでパッとできる時代になりました。

子どもが生まれてから9年間フルタイムの仕事から離れていました。子どもが小学1年になったあたりから、ウェブサイトの更新や文章を書く仕事をリモートで再開してはいましたが、私には最新のソフトウエアは使えない。同じ場所に戻るくらいなら、全然やったことのないことをやりたかった。子育ての間、法科大学院に入って司法試験合格を目指したこともあります。

そのうち「AIという新しいテクノロジーがあるらしい」と知って、そっちに方向転換しました。で、ABEJAを知りました。

ーーまだ知られていない「AI」をキーワードに求職を始めたんですか。
斎藤:
企業の中にAI関連部署はあっても、AIそのものを事業にしている企業は当時は10社程度しかなかったです。ABEJAは最初、事務職を募集してました。事務をやりつつも、何かAIにかかわる仕事が回ってくるかもしれないと、「ウェブサイト作れます」「Photoshop使えます」と履歴書には書いておきました。

そしたら、面接の時に「変わった仕事なんですが、アノテーションというAIの教師データを作ってもらう仕事です」と言われて、ラッキー!と思いました(笑)

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アノテーションをしたブドウの画像(サンプル)。物体の形状と位置をAIに学習させるために、葉をピンク、房を青、枝を赤で塗り分ける。

ーー「アノテーション」と聞いて、すぐにイメージわきました?

斎藤:わきませんでした。でも面接でアノテーションの作業イメージを見せていただいて「たぶん、できるだろう」と思いました。 アノテーションでは、膨大なデータの処理や入力、繊細な作業が求められます。そのせいか面接でも「細かい作業に耐えられますか?」と聞かれました。
そのあたりも司法試験の勉強で自信がありました。1科目に200ぐらい判例を覚えるんです。8科目あるから1000以上の判例を読む。だからコツコツする作業は面倒に思わない。

アノテーションの中では、色で画像を塗り分けていく「セグメンテーション」の作業が好きです。対象物の曲線や先っぽをいかに微細に塗っていくか、自分の制作経験も生きてます。

ーーアノテーションは、AIに教えるための「意味」をデータにつけていく仕事とも言えます。でもその「意味」には、社会規範や時には無意識のバイアスが反映されるかもしれない。その点、どうお考えですか?
斎藤:
アノテーションをする際に作られる「仕様書」をまず踏まえて意味づけていきますが、やはりどうしても仕様書には書かれていない「例外」も出てくる。

例えば「お椀」の画像に「お椀」という意味をつける作業で、「皿」にも「鉢」にも「お椀」にも見える食器が出てきたとします。大きさは「皿」だけど、深いので「お椀」ともいえる。それとも「鉢」?「どれだろう?」と悩むわけです。

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高速道路や信号、車、建物などを色分けしたアノテーション済みの画像(サンプル)

斎藤:そこでどういう基準で「お椀」「皿」「鉢」と判断するのか定義づけが必要になってきます。「形」で判断するのか「深さ」なのか「材質」なのか。そうしたことをプロジェクトマネージャーとメンバーと確認し、判断基準を統一することで、なるべくバイアスを排除するようにしています。

この「お椀」か「皿」か「鉢」かの定義づけの「原則」と「例外」の関係は、かつて自分も勉強した法律の条文解釈に通じるところがあると思います。

法律は、一般に起こるだろうと想定された事件を網羅し「このパターンならこういう法律違反になる」という考えで構成されています。だから「こういう条件が揃うと、こういう効果が起きる」と条文には書かれている。

でも現実社会では、条文の条件にぴったり当てはまらない事件がたくさん起きますよね。実際に起こった事実を条文に当てはめる際に、事実と条文の間に生じた多少のズレを、条文の解釈で当てはまるようにします。

この解釈の過程で、「社会の相当性」という、いわゆる一般常識を使って判断することもあります。そういうところが、さっきの「お椀」のアノテーションでいうと、仕様書という条文からズレた「お椀」を一般常識に照らし合わせて定義づけるアノテーションの作業に似てるなあ、と。

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ーー美大で博物館の展示を勉強していたころからAIに学ばせるデータの意味づけまで、ずいぶん遠くに飛んできましたね。
斎藤:
東京に出てきたころは、「頑張らなきゃ」と気負ってたところがあったんですけど、「何やろう、何やろう?」と探すうち、新しいことに目が向きやすい自分に気づきました。

その時代に生きていなかったら会えないもの、触れられないテクノロジーがあって、私が今を生きてるからこそ体験できる。

新しいことが好きな性分なんだなあと、しみじみ思います。新しいことって、別に怖いことではないんです。

取材・文 錦光山雅子   写真:川しまゆうこ


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AIの実装を手がける企業ABEJA(アベジャ)で働くテクノプレナーたちの日常・素顔を発信しています。 テクノプレナー:『ゆたかな世界』を問うリベラルアーツと実現するテクノロジー。この2つをアントレプレナーシップで循環し、推進する行動姿勢を体現する人たち。略して「テクプレ」。

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