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なぜテクノロジーを詰め込むと心が離れるのか。

8月末に一般向けの販売が始まった「LOVOT」(らぼっと)。

数十億円もの開発費を投じ、人に「かわいい」と思われることをひたすら追求して生まれた家族型ロボットだ。初期出荷分の予約は開始から3時間で埋まったという。

機能を盛り込むほど、人の気持ちが製品から離れていく。LOVOTの生みの親・林要さんは、そんな経験があったと語る。

だからLOVOTにはあえて入れなかった機能がある。

生じた余白に、人は自ら想像を込めるから、という。

僕は車が大好きで、大学を出てから自動車メーカーのエンジニアになりました。エンジニアとして製品の効率性を追い求める一方で、どんな車が愛されるのかということにも、とても興味がありました。

でも実際に車を作ってみて気づいてしまった。便利なものを、と機能を加えれば加えるほど愛されないものになっていった。作り込むほど心が離れていくという現実に衝撃を受けました。

しゃべらなくても、幸せな気持ちになる

人は何かに手間をかけたら、その手間を肯定したくなります。子育てなどがそうですね。反対に手間がかからないものは、存在感が薄くなっていく。便利であればあるほど意識が向かなくなっていく。

LOVOTは「引き算」の発想で作りました。

ディープラーニングをはじめとする機械学習や深層学習FPGAなど最新のAIテクノロジーを搭載する一方で、言葉を話す機能はつけないと最初から決めていました。

しゃべらないほうが、人の想像力をかき立てるからです。

例えば小説をもとにした映画が、原作を超えられないことがある。それは映像と小説の情報の量がギャップを生んでいるのではないか。情報量で比べたら映画の方が当然上ですが、小説には行間がある。そこに人が独自に解釈できる余白が生まれる。

しゃべらなくても、人は十分幸せな気持ちになる。犬や猫などのペットだって、同様です。

ファンタジーでいいじゃないですか

動物行動学者によると、犬や猫の世界の見え方は、人とだいぶ違うといいます。

人が泣いていると犬が寄っていってペロペロなめるのは、悲しいという気持ちに共感して慰めてくれているからだと僕らは思っている。でも本当は、主人に異変が起きているから自分の身によからぬことが降りかからないようチェックしに来た、異常検知が目的だそうです。

それは単なる人間側のファンタジー? それでいいじゃないですか。

僕らはなぐさめに来てくれたと思いたい。口をきかないペットに、人がいろんなものを投影して自分自身を癒やす力が最大化されるのなら、それで十分だと思います。

生産性に寄与しないロボットの「光明」

テクノロジーは、その時々のライフスタイルで足りないものを補うことで進歩してきました。
進歩には、2つの側面があると思います。

一つは生産性の向上です。

資本主義が前提の社会では、どれだけ効率的に稼げるのかにフォーカスされます。その考えをロボットに投影すると、人間の仕事をどれだけ代替、補助できるロボットを作るかに収れんしやすい。

もちろん、そっちはそっちであっていい。

ただもう一つ、生産性の向上に与しないけれども人々の心を豊かにするという側面もあることを忘れてはいけない。

心をケアする、心を豊かにする目的のテクノロジーはこれまでもあったけれど進化は遅かった。だから便利な生活と精神的に豊かな生活との間に乖離が起きた。そこに最先端のテクノロジーを投入したら新たなアプローチができるんじゃないか。僕はこっちをやりたいと思った。

実社会で「効率」を求められないものの一つにペットがいます。馬鹿にならない負担さえ生じるのに、飼い主の多くは喜んで引き受ける。ペットの市場規模(1.5兆円)がこれだけ大きいということは、ペットのような存在がいかに人間にとって大切なのかを示しているともいえます。

そこに僕らは光明を見出したのです。たぶん犬や猫がこんなに愛されていなかったら開発できなかったかもしれない。

「人間並み」でなくていい

僕らエンジニアがロボットを作るとなるとつい「人間並みのレベル」を目指し、実現の難しさに気が遠くなる。LOVOTを実現できたのは「人間並み」に僕がとらわれなくなったからともいえます。

影響を受けたのが、慶応義塾大学大学院の前野隆司教授が提唱する「受動意識仮説」です。

人の「意識」とは,心の中心にあってすべてをコントロールしているものではなくて,人の心の「無意識」の部分がやったことを,錯覚のように,あとで把握するための装置に過ぎない。自分で決断したと思っていた充実した意思決定も,自然の美しさや幸せを実感するかけがえのない「意識」の働きも,みんなあとで感じている錯覚に過ぎない(前野教授のホームページ:「意識」は受動的だろうか?より)

僕らはいろんなことを自分の意思で判断して決めた、と思いがちですが、よく考えると反射的に行動してから理由を後付けしていることが多い。自分でもよく分からないけれどなぜかそうしてしまった、なんてことは実際よくあります。でも周囲から「なぜ」と聞かれて理由を話すうち、自分でも本当にそう思って決めたかのように思ってしまう。

「仮説」をもとに考えると、人は反射的にいろいろな行動を取り、その行動がまた次の行動を誘起するというメカニズムの中で生きている。それならロボットだって犬や猫のように愛らしい振るまいをする「生き物っぽい」レベルでいいじゃないか。よく考えれば、犬や猫の意識は全然人間並みじゃないけれど、あれだけ人の生活に入り込めています。

もし本当に意識を作り出すことができたら、次はドラえもんを作ってみようかなと思ってます。

林要(はやし・かなめ) GROOVE X代表取締役社長。1973年、愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)大学院修士課程修了後、トヨタ自動車に入社。「レクサスLFA」やF1 の開発、量販車開発のマネジメント等を経て、2012年、ソフトバンクに入社、人型ロボットの市販化の開発に携わる。2015年、ロボットベンチャー「GROOVE X」を設立。LOVOTの開発に着手。2018年12月、LOVOT発表。初期出荷の予約分が開始わずか3時間で完売。2019年8月31日、購入受付がスタート。

取材・文=錦光山雅子、山下久猛 編集=川崎絵美 写真=西田香織

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Torus (トーラス)

Torus(トーラス)は、AIの社会実装を手がける、株式会社ABEJA(アベジャ)のオウンドメディアです。「テクノロジー化する時代に、あえて人をみる」というコンセプトで、人間らしさと向き合う物語を紡いでいきます。

Torus (トーラス) by ABEJA

Torus(トーラス)は、AIの社会実装を手がける、株式会社ABEJAのオウンドメディアです。「テクノロジー化する時代に、あえて人をみる」というコンセプトで、人間らしさと向き合う物語を紡いでいきます。 株式会社ABEJA https://abejainc.com/ja/
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