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AIベンチャーの海外進出。ミス連発の私に上司が教えてくれた「コケて学べ」

社員数十人のベンチャーでも、海外で成功できるのか。私が転職したAIベンチャー企業「ABEJA」は2017年に、初めて海外へ進出しました。国内事業すら安定していない状態で、かつ転職間もない私がまさかの海外法人立ち上げの担当に。

人脈、経験、英語力、全部ゼロ。シンガポールに単身乗り込んだ上司と、東京に残った私で試行錯誤で仲間を増やし、結果を出すまでの2年。ベンチャー企業による海外展開の「リアル」を伝えていきます。

ありえないミスを連発

2017年4月には上司で海外担当役員の外木直樹がシンガポールに着任することになり、日本にいる間に現地法人のオフィスを確保しました。といってもシェアオフィスです。年間家賃が70万円と、相場と比べて安かったので即決しましたが、実際に行ってみると、東京の歌舞伎町のような飲み屋街にあり、騒がしくて驚きました。

最初のオフィス=2017年4月

2016年11月に海外進出の方針が固まり、登記や現地の会計事務所探しなど、進出に伴う準備のほとんどを私が担当していたのですが、当時は本当にミスを繰り返していました。テンポよく仕事に臨む同僚たちがまぶしく見えたものです。

邦銀のシンガポール支店で法人用の口座を開いたときのこと。法人の取締役会で資本金の承認を得てから1カ月以内に、口座を開いて資本金を移しておく必要がありました。現地で事業活動を始める際、パートナーに支払いをするためです。

開設にあたり、銀行から役員のパスポートや株主リストなど開設に必要な英文書が約15種類送られてきました。英語で書かれた専門用語が並び、読んでも理解できません。担当者との間で日本語の質疑応答を何往復もさせて、文書を作りました。そもそも株主構成や会社の財政的な情報を理解するのも大変でした。

グーグル翻訳で日本語に訳しながらなんとか文書を完成させた後、今度は文書にサインをしてもらうために、シンガポール駐在の会社秘書役と私の間で国際配送便で文書を一往復させました。ようやくできた文章を銀行に国際配送便で送ったのですが、今度はカバーレターが、あらかじめ指定されていたものを使っていないと、差し戻されてしまいました。

修正しているうち、締め切りが迫ってきました。焦って銀行の担当者に「口座開設事務を早めてほしい」とお願いし、なんとか締め切り当日に開設。周りをヒヤヒヤさせました。

銀行といえば、こんな失敗もありました。

「給与振り込みの金額計算、間違っていない?」

事務所を開いて数カ月がたったころ、給与振り込みの翌日、外木から連絡がありました。

「え?」

確認すると、外木にシンガポールドルで給料を振り込む際、計算ミスで、本来渡すべき額の7割程度しか振り込んでいませんでした。

「それまでもいろいろしでかしてきたのを見てきたが、今度はここをミスるか!と思わず笑ってしまった」と外木は振り返っています。

シンガポールで講演する外木

「コケて学べ」

こうした仕事は会計事務所に丸ごとお願いすれば、滞りなく済んだのかもしれません。でも、私たちはしませんでした。

丸投げして圧倒的な成果が出たりスピードが生まれたりするのなら、もちろん任せます。だけどそこまででないのなら、まずは経験がなくても自分たちでやってみる。

最初は失敗もするし、美しいかたちに仕上がらないこともあるでしょう。でも経験すれば、自分でゼロからプロセスを組み立てる力が身につきます。自分でたいがいのことは決める力も養えます。上達すればむしろ外部に任せ放しにするより品質を高めたり、業務プロセスを柔軟に変えたりすることができます。

当時は無我夢中でそこまで理解していませんでしたが、失敗続きの日々は、ゼロから「クイック&ダーティー」を重ねる過程だったのだ、と今は思います。

こうした仕事を私に任せた外木も「クイック&ダーティー」で経験を増やしてきたといいます。「働き始めてから今まで、意思決定から結果まで『コケて学べ』と全面的に任せてもらえる環境にいた。自分で決められる分やる気が出たし、失敗も修業にもなった」と振り返ります。

国内事業が成長しているさなかに、海外事業に移った外木ですが、ディープラーニングがまったく広まってない時期にABEJAに飛び込んでビジネスを広げてきたときと同じだと言います。「まだ誰も気づいていない分野に直感的に飛び込み新しい価値を生み出していく。しかも世間の関心がそこに向くころにはもう次の場所に移っている、くらいの速度で。それが最高に楽しい」

外木は赴任直後から、知り合いをたどり、現地の起業家や投資家、シンガポール政府機関の担当者や国立大学の研究者と会い始めました。

「誰の何の課題をどんな事業で解決すればいいか」という問いへの仮説が正しいかどうか、相談の相手になってもらうのが目的でした。同時に自分たちの事業を何らかのかたちで関わってくれそうなパートナーを探す意味もありました。当時のスケジュールを見返すと、1日4~5人に会い、朝昼夜も会食していました。

優秀な同僚にモヤモヤ

東京に私、シンガポールに外木、の2人体制で始まった海外進出ですが、現地の事業担当は最低1人は必要でした。外木が着任早々、現地の採用エージェントに依頼して募集を始め、1週間後にはシンガポール人の女性と業務委託契約を結びました。私たちにとって、初の「同僚」でした。

新しい同僚は、私たちが何より大事にしていたスピード感を備えていたほか、事業の内容をただちに理解し、採用数日で同国政府との協業に向けた交渉に入るなど、行動力もありました。「立ち上がりが、すごくスムーズ...!」。私は尊敬の念すら抱きました。

一方で、漠然とした不安にもかられました。「これだけ優秀な人がどんどん入ったら、私がやれる仕事は、なくなるだろうなあ...」

ABEJAの前に働いていたリクルートには、こんな決まり文句があります。

「自分より圧倒的に優秀な人を採用しろ」

スタートアップにとって、優秀な人たちの採用は会社の成長に欠かせません。以前から働いている社員にとっては、意識や能力が高まる機会でもあります。逆に言えば、優秀な人に選ばれる会社は「成長している」ということです。

優秀な同僚にモヤモヤした気持ちを抱いていた当時の私は、この言葉を飲み込みきれていませんでした。

自社主催のMeetupを開いたとき、会場から見えたマリーナベイサンズの夜景=2018年夏

能力より、高い山を登ろうする気持ちが大事

同時にこのころ、ネガティブスパイラルにはまりました。

いつかは事業開発やマーケティングにも挑戦したい、という淡い期待を胸に、外木の補佐として入社しました。実際は、それらの仕事を更に海外でやるというチャンスを得ながら、テクノロジーのキャッチアップや慣れない仕事に悪戦苦闘し、自信を失い、どんどん後ろ向きになりました。

時折頭がボーっとして、考えがまとまらない。そしてなおさら仕事がたまる──というサイクルに陥りました。いつ抜け出せるのかが見えず、息つぎの仕方が分からないまま、おぼれないようにもがき続けるのが精いっぱいな感じでした。

ただでさえ人手がいないのに、ミスばかりで足を引っ張るのも迷惑だろう。こんな部下でもやめると迷惑か。そんな思いを外木に相談したことが何度かあります。そのたびに、こういわれました。

「スタートアップは状況がどんどん変わる。だからその時の能力よりも、高い山を登ろうとしている気持ちの方が大切で、むしろ1ー2年は失敗して学んだ方が個人にも会社にもいい。だから諦めずに努力している人は絶対に見捨てない」

能力よりも本人のマインドと成長の速度が重視される。その理由が、当時は分かりませんでした。でも、こうした言葉に励まされてはもう少し頑張ってみよう、と業務に向きあう日々でした。

メンバーは目の前の成果で一喜一憂しますが、経営者はいつも数年先にどうなるかを見ています。2年経ち、当時の自分が見たら驚くほど優秀な仲間に囲まれて仕事に向き合う今では、そのことを身をもって実感しています。

【ベンチャーの海外進出Tips】
1.自分が短期的に物事を見ていないか内省する

・経営者は数年先を見ながら経営をしている
・その時の能力よりも、未来やビジョンに共感し、上司を信頼して、徹底的に試行錯誤する


2.自分の仕事がなくなることは、最大の「成果」
・仕事を託すことは、優秀な人材を採用して成長を続けるスタートアップ社員全ての使命
・常に「他の人が代わりにやるなら」の視点で考えると、自分が新しいチャレンジができるようになる

3.クイック&ダーティーにでもプロセスを理解する
・短期的な成果だけを見ずに、長期的なプロセス構築のために自分で理解を深めることが大切
・自分で理解を深めると、単純なコストセーブだけでなく、今後の拡張に向けた仕組み作りに活きる

文:夏目 萌
(2019年6月7日掲載のForbes JAPANより転載)

夏目萌(なつめ・もえ)
1989年生まれ。2012年、リクルートに入社。経理部を経て人事部で制度企画、労務、IT関連の新卒採用を担当。AIエンジニアの採用担当だったときにAIのテクノロジーの革新性に惹かれ2016年、ABEJAへ。入社直後から同社初の海外事業立ち上げを担当、現在に至る。

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Torus(トーラス)は、AIの社会実装を手がける、株式会社ABEJA(アベジャ)のオウンドメディアです。「テクノロジー化する時代に、あえて人をみる」というコンセプトで、人間らしさと向き合う物語を紡いでいきます。

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