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「人間らしく生きたかったなあ」亡き父に渡された1枚の履歴書。

長谷直達です。
ABEJAに入社して3年。6月30日をもって取締役を退任しました。7月末には九州に移住し、今後はフェローとして会社を応援する立場にまわります。

この3年は、本当に刺激的でかけがえのない日々でした。ですが、プライベートでのさまざまな経験を通じて「自分らしくありたい」と考え、自ら退任することにしました。退任を決めるまでの心のあゆみを、ここに綴ることにしす。

仕事の節目の日、父にがん「余命3カ月」

滋賀県で育ちました。共働きの両親は忙しく、僕は犬や猫など動物に囲まれて育ちました。そんなこともあり将来は生き物にかかわる仕事がしたいと、大学も農学部を選びました。朝5時に起き、眠たい目をこすりながら作業服を着こみ、ボサボサの髪のままバスに揺られて牧場へ行き、畑を耕したり、牛や馬の世話をしたりする生活を送っていました。

卒業後に入社したのはミクシィです。高校時代に姉に招待されてmixiを使い始めたとき、「これは世界を変える」と興奮したことを覚えています。「mixi」のプロダクトオーナーからM&Aの担当、営業、マーケティング、管理を経てグループ会社の取締役に就任することになりました。

そんなとき、父にがんが見つかりました。

取締役の就任前日、結婚を控えていた姉に会うため家族が東京に集まりました。その日の朝、父が背中が痛いと訴え始め、病院を受診すると、ステージ4の膵臓がんと分かったのです。医師からは「余命3カ月」と言われました。

父のそばにいたいと思った僕は会社を退職しようと決め、就任当日、上司に告げました。すると「親は本当に喜ぶと思うか」「父ときちんと話してこい」と諭され、滋賀の実家に帰りました。

親孝行の息子だと父に感動してもらえるのではないか。そう思っていた僕に、父は「そんなことは誰も望んでいない」と短く太い声で一喝し、早く仕事に戻れと僕を東京に追い返したのです。

困惑した僕は再度上司に相談し、仕事を続けながら定期的に実家に帰って父たちと会うという「中庸」の方法を選びました。

余命3カ月と言われた父ですが、大学病院の治験に参加し、その後2年間も頑張ってくれました。その間、僕たちはとても尊い時間を過ごせました。いつか来る別れへの心の準備をしながら、それぞれの家族をより深く理解していく時間になりました。「中庸」を選んで本当によかったと思っています。

「人間らしく生きたかった」 渡された、父の履歴書


当時、僕はミクシィのグループ会社の役員でしたが、元々やりたかったミクシィ本体のSNS事業がTwitterやFacebookという海外勢にとってかわられてしまったこともあり、やりたいことがみえなくなっていました。

以前、ミクシィ時代の上司から人間の意思決定には2つの選択肢がある、と教えてもらったことがあります。

1. 楽しいことや、やりたいことをやってドーパミンが出ているようなもの
2. 辛いことや、やりたくないことをやってアドレナリンが放出されてしまうもの

僕は本来、自分の中で意味づけされていないことには打ち込めない1のタイプです。ただ当時は明らかに2の気持ちでした。

そんなころ、実家に帰っていた僕に、父が自分の「履歴書」を急に渡してきました。話下手な父らしく、リビングでご飯を食べているときに「ほらっ」と言いながら、脈絡なく渡してきました。そこには僕が知らなかった父の履歴が記されていました。

履歴書を読む僕の前で、父はポロッと言いました。
「もっと、人間らしく生きたかったなぁ」

父は絵にかいたような「仕事人間」でした。外資系の製薬会社に勤めて国内外を飛びまわり、土日も部屋にこもって仕事に没頭し、家族との外食は年1回ほど。日曜日は囲碁の試合をTVで観るのが唯一の趣味でした。

50代で体を壊し、60歳前に退職、がんが見つかるまでの2年間は母を連れて毎週のように国内を旅していました。仕事人間だった30年間の恩返しでもあり、罪滅ぼしでもあったように思います。

病気になった父が、人間らしく生きられなかったと振り返っている。僕の人生観は、ガラリと変わりました。

そんなころABEJAに出会った

2012年、僕が役員を務めたミクシィのグループ会社が売却されました。売却の手続きが終わった日の深夜、大学時代の友人たちと久しぶりに飲みました。この飲み会でABEJAで働いていた友人から誘われたのです。

AI化が進めば、SNSが世の中を変えた以上のインパクトになるだろう。すべての世界でゲーム・チェンジが起き、人間が労働から解放される領域も出てくる。人間が「君はなにをしたいんだ?」と問われる時代が絶対くるーーそんな時代を見据え、ABEJAのメンバーが考えていることがとても刺激的でした。

テクノロジーと切り離してビジネスを語ることは、もはや難しい。それくらい急速に世の中のテクノロジーは爆発的に進化し、すべての領域に潤滑油として溶けこんでいる。価値観が多様化し、自分の意思を求められる機会が増える。アルゴリズムに支配された、人がテクノロジーの奴隷となるときがやってくると、人間らしく生きるためのリベラルアーツが重要になる。

非効率さを愛することで生まれる文化をどう育てていくか?どうやってメタゲーム化できるか?メタゲーム化した世の中のルールでどのように勝つか?

この難問をAIの会社に身を置きながら解いていくのは非常にエキサイティングなことじゃないか。そう思い、ABEJAに入ることにしました。

当時、ABEJAは創業4年目、メンバーは20人足らずでした。自社のプロダクトがようやくできてこれから売り込んでいく時期でした。入社間もないころ、僕がデュアルモニターで効率よく仕事をしたいと相談したとき、「まずは売り上げを立ててからそういうこといってくれるかな」とやんわり諭されました。自分が今まで生きてきた世界とは、まったく違うルールなのだと考えを改めたことを覚えています。

入社すると人事を担当することになりました。経験はありませんでしたが、ミクシィ時代から3カ月に1回は自分の役務が変わり、違うことに全力で取り組むことには慣れていました。ゼロから人事を勉強しました。

当時は採用サイト経由で人を集めることに注力しました。知恵を絞って採用サイト「Wantedly」のフォロワー数を2週間で1140人から3485人に増やすことができました。あまりの急増ぶりに、Wantedly側から完全に「アウト」なことをやっているのではないかと問い合わせをもらったほどです。でも、純粋な企業努力でこの成果を達成したのです。

乏しい資金でも、求人サイトでの採用マーケティング&ブランディングをしっかりやるだけで大きく伸びることができました。

組織の安定にも力を注ぎました。
当時、ABEJAは18人入社し、12人退社するという事態が起きたばかりでした。また、シンガポールにも進出することを決めたばかりで多くの課題がありました。そんな状況で新卒で入社したメンバーたちと全社合宿を企画し、課題に一枚岩で向き合う組織になるという目的を据えました。

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まさかの「30人31脚」まで企画し、これまでにないエモい経験をしました。
この合宿でメンバーと取締役陣の対話で組織の血流がよくなり、壊死する前に末端の器官まで酸素を届けることができたと思っています。

ABEJAでの3年で僕がずっとやっていたのはつまるところ、ビジョン→戦略→戦術→実行という血の循環をよくするための取り組みでした。小規模ながら走れる身体にするための器官をつくっていったと思っています。

2018年12月、取締役に就き、プライベートではその約1カ月後の2019年1月、結婚しました。

取締役になってからは、5つのことを大事にしていました。

・赤子のように情報を吸収する
・直面している課題を正しく認識する
・社内外の信頼を勝ち得る
・自分を含めた経営チームを常に客観的に評価する
・心の準備をする

ただ、一番重要なのに疎かにしていたのが、「心の準備をする」ことだったと思っています。

結婚以来、取締役の仕事とプライベートの両立を常に考えてきました。でもその間、父の時のような「中庸」の状態が取れないこともあり、どうしたらいいか葛藤することが増えました。

「人間らしく生きたかったなあ」。父の言葉が、このとき僕の背中を押してくれたと思います。

「自分らしくいられているか?自分らしくいられる環境を構築できているか」

会社と自分と家族のこれからを考えた末、今回はあえて「中庸」をとらないことにしました。家族を中心としたライフスタイルへ移ろうと決めました。

人生、正直なにがあるかわからない。だからこそ、自分らしく、人間らしくあろう。弱みも、目の前で起こっている事象もすべて受け入れ、その上で自分の内なる声に耳を傾けながら生きていこう。前を向いて生きていこう。

だから6月で退任すると決めました。いまの僕にとっては、一番自分らしい選択だと思っています。

どうもありがとうございました。

長谷直達

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Torus(トーラス)は、AIの社会実装を手がける、株式会社ABEJA(アベジャ)のオウンドメディアです。「テクノロジー化する時代に、あえて人をみる」というコンセプトで、人間らしさと向き合う物語を紡いでいきます。

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